ムスリムを知る|イスラム教のルール(信仰、生活規範、服装)とは?

2018年7月30日インドネシア, マレーシア, ムスリム

経済発展が著しい東南アジアからの訪日外国人は増加の一途をたどっていますが、その中には多くのムスリム旅行者が含まれています。今後も増加が予想されるムスリム旅行者をスムーズに受け入れるには、彼らが訪日旅行時に、宗教的・文化的な習慣により不便を感じることがないようムスリム対応の強化が重要です。そのための第一歩は、何と言ってもムスリムの皆さんの背景について正確に知ることではないでしょうか。このコラムでは、「ムスリムを知ろう」と題して、ムスリム旅行者の「信仰、生活規範」について取り上げます。

ムスリムとは

世界三大宗教のひとつであるイスラム教を信仰している人々のことです。「イスラーム」というアラビア語には、「自分の重要な所有物を他者の手に引き渡す」という意味合いがあり、そこから転じて「神への絶対的な服従」を表すようになりました。イスラム教には生活規範に関するさまざまな教えがありますが、多くのムスリムはその教えをとても大切に考え、それに従って生活しています。そのため、ムスリム旅行者を受け入れる際には、イスラム教の教えから来るムスリムの生活規範を理解し、それに配慮することが必要になります。

イスラム教の信仰について

イスラム教徒とは

● 西暦7世紀初頭にムハンマドが、現在のサウジアラビアにあるマッカ(正式名はマッカ・アル=ムカッラマ)* 郊外で神(アラビア語でアッラー。イスラム教徒が信じる唯一絶対神)の啓示を受けたと主張し、イスラム教を始めました。当初は200人ほどの信者しかおらず、マッカの人たちから迫害を受けたりもしましたが、時には武力に訴えながら徐々に勢力を拡大し、20年あまりかけてアラビア半島全体に広まっていきます。
* サウジアラビア政府は、1980年代にこの市の名前の公式な英語表記をMeccaからMakkaに改めたので、本コラムでは「マッカ」を使用します。
● 西暦632年に起きたムハンマドの死後、アブー・バクルという人が正統な後継者として選出され「カリフ制」を始めて第1代のカリフに就任しますが、それを認めない指導者たちが数多く現れ、イスラム共同体は分裂していきます。ついに、西暦7世紀後半に4代目のカリフであるアリー(ムハンマドの甥)とその直系の子孫のみがイスラム共同体を指導する資格があると主張する勢力(シーア派)と、それ以外の勢力(スンナ派、「スンナ」とはムハンマド以来の慣習(スンナ)に従う者の意)の2つに大きく分離し、この2つがイスラム教の2大宗派を形成して現在に至っています。

イスラム教の教えとムスリムの生活規範

● イスラム教には、冠婚葬祭や食事・礼拝の際の教えや決まり事、人々の生活全般に関わるさまざまな規範があります。こうした規範は、預言者ムハンマドが神の啓示を受けて記録したクルアーン(聖典)と、ムハンマドの言行録であるハディースに記されています。
● とはいえ、イスラム教の教えの解釈やその実践方法は、宗派や国・地域、文化、個人によって異なるため、ムスリム旅行者への対応に関する世界統一基準はありません。一般的に、サウジアラビアをはじめとした中東諸国はイスラムの戒律を厳格に守り、それ以外の地域(インドネシアやマレーシアなどの東南アジアを含む)はそれほど厳格でない傾向にあります。
● 上記の違いが生じる理由はいくつかありそうですが、一般的には、中東諸国のように国家が厳格にイスラム教を国教として採用しイスラム法を施行している場合は、国家が宗教を理由に個人を取り締まるために厳格になりますし、そうでない国ではそれほど厳格にはならない、といった理由が大きいようです。他にも、アラブ世界では武力によって支配者がイスラム教をその地域に広めましたが、東南アジアなどではイスラム教徒の商人が伝道することで広めたというように、イスラム教の広がり方の違いが影響していると説明する人もいます。

ムスリムの生活規範(イスラム教のルール)について

 イスラム教の生活規範の中でも、受け入れの際に特に理解が必要なものは以下の2つです。
① ハラール(許された行為・物)とハラーム(禁じられた行為・物)という考え方に基づく規範。ムスリムの生活全般に、このハラールとハラームが存在し、ハラールを避けて生活しなければならないと考えています。
② 毎日5回、マッカの方角を向いて礼拝しなければならないという規範
では、上記の2つを中心に具体的にご説明しましょう。

イスラム教の教えと生活規範 その1「食」

豚肉

イスラム教の教えでは豚肉を口にすることは許されていません。また、豚肉や豚由来成分として、豚肉を使用した加工食品(ベーコンやソーセージなど)や豚のエキス・油脂(豚骨スープやラードなど)、調味料や添加物などに含まれる豚由来成分(乳化剤、ショートニング、ゼラチン、コラーゲンなど)も口にしません。

アルコール飲料

イスラム教の教えではアルコール飲料を口にすることは避けるべきとされているため、多くのムスリムはビール、ワイン、日本酒などのアルコール飲料を飲みません。また、みりんや醤油などの調味料に含まれるアルコールを口にしないムスリムもいます。

動物性食材全般
鶏肉や牛肉は食べることができますが、イスラム教にはと畜の方法に決まりがあり、イスラム教が許容すると畜方法で処理された肉(ハラール肉)以外は口にすることができません。
他にも細かい規範がありますが、詳細は以下の情報源でわかりやすく説明されています。
NPO法人「日本ハラール協会」の「ハラールとは」のページ

イスラム教の教えと生活規範 その2「礼拝」

礼拝のタイミング
イスラム教の教えでは、夜明け前、昼、午後、日没時、夜と1日に5回5分程度の礼拝を行うように求められています。正確な時間は、場所や日の出・日の入りの時刻により毎日異なります。
旅行中の礼拝
旅行中は、朝、昼食前後から夕方、夜の3回礼拝を行うなど、礼拝の回数を減らす方々もいます。
礼拝の行い方
● 礼拝場所
清潔な場所で礼拝を行わなければなりません。トイレや浴室などでの礼拝は禁じられています。
● 礼拝前の洗浄(ウドゥ)
礼拝前には、手・口・鼻・顔・腕・神・足を水で清める必要があります。また、手は肘まで、足はくるぶしまで流水で洗います。
● 礼拝の方角・道具
キブラ(マッカの方角)に向かって行うことが決められています。額を付けて行うため、礼拝用マットを使うことが一般的です。
● 礼拝の人数
可能な場合は集団で行うことが奨められていますが、一人で行うこともあります。
● 参考情報
Web上には礼拝時刻や方角を計算するサービスが掲載されています。例えば、以下のサイトです。

イスラム教の教えと生活規範 その3「その他」

異性への接客

イスラム教には異性との接触は望ましくないという教えがあります。異性との握手などは、相手から求められるまでは避けた方がよいでしょう。

お風呂への案内
家族以外に素肌を見せることを嫌がるムスリムが多いため、大浴場は避ける傾向があります。貸し切り風呂のサービスを案内すると感謝されます。
右手を優先して使う
イスラム教の教えでは、食事の際は右手を使うとされています。日常生活でも右手を優先的に使う人が多いことは知っておいてもよいでしょう。
犬を近づけない
イスラム教では犬になめられると汚れると考えられています。犬を嫌がるムスリムもいるようです。
おみやげをわたす際の注意点
イスラム教では偶像崇拝が禁じられています。人形や人・動物のポストカードなどのおみやげをわたす場合は、本人に確認するとよいでしょう。
クルアーンの取り扱いには注意
クルアーンはイスラム教の聖典で、ムスリムはクルアーンをとても大切に考えています。そのことを理解して接するようにします。また、アラビア語で書かれた原典は、非ムスリムが取り扱うことは望ましくないと考えられていることも理解しておきます。
断食月(ラマダーン)には特別な配慮が必要
● ムスリムには一年に一度、夜明けから日の入りまで断食をするという習慣があります。断食は約30日間続き、この期間を断食月(ラマダーン)と呼びます。断食月はイスラム暦(ヒジュラ暦)で計算されるため、毎年異なります。
● 旅行中は断食しないムスリムが多いですが、断食するムスリムもいます。その場合には、希望があれば朝食を夜明け前に取れるようにするなどの配慮があるとよいでしょう。

ムスリムの服装

● イスラム教では男女ともに体の露出を少なくすることが求められています。特に女性は、顔と手以外を隠し、近親者以外には目立たないようにしなければならないことから、保守的なイスラム社会では「ブルカ」や「ニカーブ」と呼ばれる、目だけを見せて顔や体全体を隠す衣装を着用するムスリム女性が多いです。
● 訪日客の多い東南アジアのムスリムの多くは、そこまで体を隠しません。頭を軽く覆っているだけで顔を見せる「ヒジャブ」を着用するムスリム女性が多いです。
上記の通り、ムスリムの生活習慣を紹介いたしました。ですが、他の宗教同様、イスラム教の教えの解釈や実践方法は、宗派や国・地域、文化、個人によって異なります。個人差があるということを理解した上で、旅行者一人一人のニーズを確認し、各人を尊重した「おもてなし」を行うことが何よりも大切だと思います。ムスリムフレンドリーな対応をする上で、本コラムの情報が役立つことを願っています。
次回は、ムスリムについての情報を得る上で役立つWebサイトを一挙にご紹介します。
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