ムスリムトラベル市場の「いま」と「これから」

2018年7月19日インドネシア, マレーシア, ムスリム

イスラム諸国の人たちにとって、日本は好ましい旅行先と考えられているようです。日本を訪れるムスリム観光客は増え続けており、2004年の15万人から2016年には70万人まで増加しました。さらに、2018年には100万人を超え、2020年には140万人に達するとみられています。

政府としても、2020年のオリンピックイヤーまでに訪日外国人客数4000万人を目指す中、人口約16億人、市場規模約200兆円と言われるムスリム市場は見逃すことができません。1人でも多くのムスリム観光客に日本に来てもらおうと、さまざまな施策を打ち出しています。

とはいえ、日本のムスリム人口は20万人と、総人口1億2500万人の0.5%程度にしか過ぎず、多くの日本人にとってムスリムは非常になじみの薄い存在です。それどころか、日本で報道されるムスリムについてのニュースはネガティブなものが多く、ムスリム=怖い、というイメージを持つ人も少なくありません。また、ムスリムをもてなすためには、お祈りの場所が必要だったり、宗教的な理由で口にできないものがあったりと、何かと注意しなければならないことが多く、敷居が高いと感じているインバウンド担当者も大勢いらっしゃることでしょう。

このコラムでは、増え続けるムスリム訪日客を迎える上で役立つ情報をシリーズで取り上げます。第1弾として『ムスリムトラベル市場の「いま」と「これから」』というテーマで、ムスリム訪日客の現状と今後についてご紹介します。

世界のムスリム人口と分布

「ムスリム」という言葉には「神に帰依するもの」という意味があり、一般的にイスラム教を信仰する人たちのことを指します。2016年の時点で、世界のムスリム人口は約16億人強と言われており、世界の総人口 約70億人の4分の1弱に当たります。

さらにその数は増加傾向にあり、そのペースも非常に速いです。2000年には13億人でしたが、2008年には16億人を突破しました。2025年には約20億人に達し、2030年にはカトリックとプロテスタントを合わせたキリスト教徒の総数を超えて、世界最大の宗教になると予測されています。

次にムスリムの分布についてです。イスラム教徒というと中東に多いというイメージがありますが、実はそうではありません。以下の図が示すとおり、アジアにもっとも多く住んでいます。アジア全体のムスリム人口は約11億人で、世界のムスリム人口の実に7割を占めているのです。

国別にムスリム人口を見ていくと、インドネシアが最大で2億人、次いで、パキスタンの1.8億人、インドの1.6億人、バングラディッシュの1.5億人と続いていきます。出生率や経済成長率の高いASEAN(東南アジア)の国々にもムスリムは多く、近年特にインドネシアやマレーシアからのムスリム訪日客が大幅に増加しています。

訪日ムスリム観光客の推移と今後の予測

以下の図は、インドネシアおよびマレーシアからの訪日観光客の推移を示したものです。日本政府観光局(JNTO)が発表している数字を参考に作成しました。

なぜ、この2つの国からの訪日観光客が増加しているのでしょうか。それには、以下のような理由が考えられます。

① 日本政府によるビザ要件の緩和
インドネシアに対しては、観光目的の入国の場合、ビザはもともと免除されていたが、2013年からは短期滞在数次ビザ(期間内であれば何度でも出入国可能なビザ)の滞在期間が従来の15日から30日に延長された。マレーシアに対しては、日本入国の場合に従来はビザが必要だったが、2013年にビザが免除されることになった。

② LCCを含む航空路線の充実
両国と日本を結ぶ航空路線は大変充実しており、ジャカルタやバリ島、クアラルンプールといった現地の都市と日本の主要都市間の直行便が毎日運行しています。エアアジアやJetstarなどのLCC便も増加しており、訪日客の増加に有利に働いている。

③ 両国とも親日国
外務省が発表した「ASEANにおける対日世論調査2017」によると、インドネシア人・マレーシア人が学びたい外国語のトップが日本語で、それぞれ64%と66%でした。また、日本語を学びたいと答えた理由について尋ねたところ、日本を訪れたいから、日本で働きたいから、日本に留学したいから、日本の文化や生活様式を理解したいからといった理由が上位を占めました。両国は東南アジアでも屈指の親日国で、日本に対する関心が高いです。

④ 政府によるプロモーションの強化
日本政府観光局(JNTO)が、2014年にはジャカルタに、2016年にはクアラルンプールにそれぞれ現地事務所を開設し、現地におけるプロモーションの強化を推進しています。2017年にはジャカルタではじめて「Japan Travel Fair」が開催されましたが、8月の3日間で51,000人が来場するなど大盛況でした。

インドネシア人の訪日旅行

インドネシアの国外旅行シーズンは、3~4月の桜の時期、6~7月の学校休暇やレバラン休暇(断食明けを祝う行事)、12月下旬~1月初旬の年末年始の休暇時期で、この時期にプロモーションを行うのが得策です。

日本国内の訪問先としては、東京・京都・大阪を巡る「ゴールデンルート」が主流となっており、東京ディズニーリゾートやユニバーサルスタジオ・ジャパンと行ったテーマパークも高い人気を誇っています。ただ、かつては団体旅行やパッケージツアーが主流でしたが、最近はFIT(Foreign Independent Tour)層を中心にインターネットによる個人予約が増加しています。

訪日の目的としては、JNTOの報告によると「桜」や「花」を見たいという人が多く、他には北海道や白川郷、飛騨高山や立山黒部アルペンルートなどの問い合わせが非常に多かったとのことです。こうした観光地の現地PRを積極的に推進していることや、インドネシアで見ることのできない満開の桜や雪景色を見てみたいという希望が大変多いことが分かります。

日本の伝統文化である着物や生け花、折り紙を始め、J-POP、漫画、アニメなどのファンも多く、今後は「モノ消費」から「コト消費」へと徐々に移り変わっていくものと思われます。

マレーシア人の訪日旅行

マレーシア人の訪日シーズンは主に4月と12月です。JNTOの統計によると2016年に訪日旅行をしたマレーシア人のうち51.7%がリピーターで、すでに日本に来たことがある人が多いです。観光目的で訪日するマレーシア人の場合、個別手配の割合が63.3%となっており、団体ツアーまたはパッケージツアーを使う割合を大きく上回っています。団体旅行のニーズはまだまだありそうですが、3分の2の人たちはFIT層です。

そのため、マレーシア特有の現象として、いわゆる「ゴールデン・ルート」が飽きられているというのがあります。マレーシア人旅行者がよく言うのが「もう東京や大阪、温泉や買い物は飽きた。何か新しい観光地はないのか」という意見です。最近では、北海道や飛騨高山、中央アルプスなどの新しい旅行先が注目されつつあります。中でも北海道は、直行便の運行が開始したこともあって大人気で、流氷ツアーやスノースポーツなどに人気が集まっているようです。また、四国のお寺に宿泊してみたい人、誰にも知られていない新しい場所に行ってみたい人、地方のマラソン大会に参加したい人、ものづくりや農業体験に参加したい人など、好みも千差万別になってきました。

マレーシアの首都クアラルンプールで年間を通じてもっとも注目されるイベントのひとつに、年に2回開催される「MATTA Fair(マッタ・フェア)」と呼ばれる旅行博があります。期間は3日間で4RM(約110円)と有料ですが、2018年2月のマッタ・フェアには約11万人が集まり、大盛況のうちに幕を閉じました。この旅行博での日本の存在感は大きく、今回のフェアに先立って行われた事前調査では日本がはじめてトップの旅行先に選ばれました。これからも、マレーシアからの訪日旅行者数は増え続けることが予想されます。

訪日ムスリム観光客が日本に期待すること

上記の状況を考えてみると、両国からの訪日観光客数はこれからも順調に伸びていくことが予想できます。では、訪日ムスリムの皆さんは日本への訪問でどのようなことを期待しているのでしょうか。以下は、JNTOが公表した「平成29年度 訪日外国人消費動向調査」で、インドネシア・マレーシアの訪日旅行者が、訪日前に期待していたと回答した内容のまとめです。

訪日前に期待していたこと(複数回答)
マレーシア(回答数663人、選択率445.1%) インドネシア(回答数484人、選択率393.2%)
1 日本食を食べること(72.3%) 日本食を食べること(68.1%)
2 ショッピング(59.3%) ショッピング(48.0%)
3 自然・景勝地観光(55.7%) 自然・景勝地観光(47.1%)

やはり、日本食、ショッピング、観光といった定番が上位を占めていることが分かります。

逆に、彼らが訪日旅行で困ったことと言えば、どのようなことでしょうか。観光庁が作成した「ムスリムおもてなしガイドブック」によると、以下が上位に上がっています。

① 食べ物やその成分の表示が不十分なことが多いため困っています。
● 日本語メニューしかないことが多く、理解できません。また、英語メニューがあっても料理の名前しか書いていないことが多いため、食べられるものかどうかの判断が付きません。

② 食事ができるお店が少ないことに困っています。
● ムスリムが安心して利用できる飲食店を探すことが難しいです。ツアーで提供される食事以外は、食べられそうな材料のおにぎりをコンビニで買って食べたり、自国から持参した食べ物を食べたりしています。
● 宿泊施設やテーマパークなど、長時間過ごす場所にムスリム向けのサービスがほとんどないためとても不便です。

③ 礼拝ができる場所が少なくて困っています。
● 礼拝できる場所が少ないことが不便です。特に空港や駅、モールなどに礼拝場所が欲しいと思っています。宿泊施設であれば自室で礼拝できますが、それ以外の滞在先では礼拝場所が必要です。
● テーマパークでの礼拝対応が不十分だと感じています。街中や商業施設、飲食店にも礼拝スペースが必要です。

④ ムスリム対応を行っている施設の情報が少ないため困っています。
● ムスリムが食事できる飲食店はあるのかもしれませんが、それを見つけることができません。ムスリム向けのガイドブックがあると助かります。
● ムスリム旅行者が訪問するいずれの場面においても、食と礼拝の対応のある施設についての情報が不足しています。

上記のような不便さがあるにもかかわらず、多くのムスリムの皆さんが日本を訪問し、好意的な印象を語っています。幸いなことに最近では、国や地方自治体がムスリム向けのインフラ整備を推進するようになり、公共の場所に設置された礼拝所や、モスクの数も増えてきました。

とはいえ、現実的にはまだまだムスリム訪日客を迎えるための準備やPRは不十分で、成功事例もそれほど多くありません。最新のマーケットであるがゆえに、しばらくは試行錯誤が続きそうです。次回以降のコラムでは、ムスリムについての理解を深めるのに役立つ情報と共に、日本や海外の非ムスリム国がどのようにムスリムフレンドリーな対応に力を入れているか、具体例をご紹介したいと思います。

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